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放送日 平成25年11月16日(mp3形式音声ファイルはこちら→) 
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 放送内容は、著作権の保護を受けますので、個人でお聞きになる以外のご利用は出来ません。

タイトル: 「京都の弱点を逆手に取る~斜めに見るんじゃないよ!逆手に取るんだよ。あるいは弱点を強みに転換させる手腕を持つ~若手建築家 魚谷繁礼氏」
概要: 京都を中心に活躍されている若手建築家、魚谷繁礼氏をお招きし、町家等の地域資源を活かした設計活動やシェアハウス、路地再生についてお話しいただきました。
出演者: 魚:魚谷繁礼(うおやしげのり)氏 魚谷繁礼建築研究所 代表
※魚谷氏の「魚」は本来は
辻:辻 真紀子氏 京都市景観・まちづくりセンター
(ラジオ担当)
絹:絹川 雅則 (公成建設株式会社)
   放送内容については、無断使用を禁止させていただきます。この件についてのご連絡はこちらまで。
絹: Give me thirty minutes,I will show you the frontline of “まちづくり” and “まちづくり” people in KYOTO.
This is「“まちづくり”チョビット推進室」です。
************************************************************************
絹: 皆様こんにちは。まちづくりチョビット推進室の時間がやってまいりました。
この番組は地元京都の建設屋の目から見た元気なまちづくりびとの紹介や、その活動の最新のエピソードをお話しております。いつものように番組のお相手は、当まちづくりチョビット推進室絹川がお送りいたします。

■今回のゲストは、京都の新進気鋭の建築家です
絹: さて、本日のメインゲスト、お若い男性お1人です。ゲストは魚谷繁礼(うおやしげのり)さんです。魚谷さん、よろしくお願いします。
魚: よろしくお願いします。
絹: そして、もうお一方、ゲストと言うよりは、身内です。我らが“まちセン”、京都市景観まちづくりセンターより、辻さんです。
辻: 辻真紀子です。よろしくお願いします。
絹: よろしくお願いします。
まず、いつものように、ゲスト紹介なんですけど、辻さんから魚谷繁礼さんて、どんな人か、あんまり会ったことがないって言ってたけど(笑)、印象をお願いします。
辻: はい、私も昨日、初めて(笑)ちょっとお話したんですけど、京都を中心に非常に活躍されていて、お名前は前から知っていました。
本当に幅広く活動をされているんですけど、1977年生まれということで、私と同い年ですね。35歳?、6歳?
絹: 36歳になったところということで、お若いです。
辻: はい、若手の新進気鋭の建築家ということで、非常に活躍されています。
絹: そして辻真紀子さんは、先ほど申しましたように、京都市景観・まちづくりセンターの職員です。
辻: はい。
絹: ゲストの皆さん、この番組をよく聞いていらっしゃる方は、覚えてくださっているかもしれませんが、京都市景観・まちづくりセンター、愛称“まちセン”の英語訳、なんて言ったか、覚えてられますか?
私はこれは本当に名訳だと思うんですけど、“Kyoto Center For Community Collaboration”と訳したヤツがいるんです。
ですから景観・まちづくりセンターの裏の使命と言いますか、陰のミッションはコミュニティコラボレーションにあるんだと言って、財団である“まちセン”の人たちはどこかで思っているフシがあると言うような話を、まちセンの連中とは、時々します。

■第一章 京都のポテンシャル
 ●魚谷繁礼さんの仕事をちょっと覗いてみましょう
絹: では、本題に入ります。
本日のゲストの魚谷繁礼さんに語っていただくメインテーマを申し上げます。
「京都の弱点を逆手に取る~斜めに見るんじゃないよ!逆手に取るんだよ。あるいは弱点を強みに転換させる手腕を持つ~若手建築家 魚谷繁礼氏」と題して、お送りいたします。
まず、魚谷さん、何の話から行きましょうかね。
魚: 何から始めましょうか(笑)。
絹: いきなり、無茶振りをつかませてしまいましたが(笑)。
私が魚谷さんのプロフィール紹介で興味があったのは、2つ、3つあります!
これはトロフィーの1つだと思いますけど、“京都のまちなかこだわり住宅 設計コンペ”で平成18年の最優秀賞を受賞されて、これは実際にモデルハウスが東山区に建ちました。
で、これは魚谷さんのホームページにも載っていますか?

京都型住宅モデル
(京都まちなかこだわり住宅)

魚谷繁礼建築研究所HPより転載
魚: はい、載っています
絹: 魚谷さんが、どんなものを設計したのか、画像を見たい人は、魚谷繁礼さんのホームページを検索して、たくさん載っていますので見てください。
なかなか面白い、戸建ての住宅がメインだったり、改修が多かったりと色々ありますけれども、あ、病院も少しありましたね。
魚: 病院もやっています。
絹: ですね、嬉野(佐賀県)でしたね。
魚: 教会も・・・。
絹: あ、教会も光の使い方が、「なんでこんなにきれいに写真が撮れるねん」というのが、ありましたね。

魚: あ、でもあれは実物のほうが、全然いいです。
絹: ああ、そうかあ!あの写真より、実物のほうがいい!という、そういう方です。
そして興味があるのは、路地奥の再生だとか、シェアハウスということに実績がおありの方だというふうに、事前の予習で教えていただきましたので、まずは魚谷さんの目から見た京都のポテンシャルというようなところから、話を始めていただけますでしょうか。

 ●奇抜なものではなく、これからのモデルをつくりたい
魚: はい、“まちなかこだわり住宅”もそうですし、路地奥についてもなんですが、京都で建築する時に心がけているのは、特殊なものとか、奇抜なものをつくろうというのではなくて、今はないけれども、これからのモデルになるようなものをつくりたいと思っているんです。
なので、“まちなかこだわり住宅”は、特殊な住宅ではなくて、町家保存は当然なのですが、新しいものもつくっていかなくてはいけない。
だから今の時代の京都にふさわしい、一般的な住宅のモデルをつくりたいということをテーマにしていました。
絹: いいですねえ!リスナーの皆さん、気がつかれました?
「奇抜なものをつくりたいんじゃないんだ」と、まず一発目に宣言されましたね。
これ、何か、設計者としてすごく大事なことなんじゃないかなと、勝手に僕、思いまして・・・。
30代じゃないですか。だいたい、その年代の設計者って、ちょっと尖っているというか、エッジがきいたのって、好きな人多いんじゃないですかね。
魚: どうでしょうかね(笑)。
人によるかもしれないですけど、そういうのもあってもいいんじゃないかと思うんですね。
絹: 京都について、モデルになるようなものを模索してつくっていきたい。
奇抜なものでなくてもいいんだということを、宣言された。
これ、是非、この方のプロフィールを代表するような言葉かもしれません。覚えておいていただきたいと思います。

 ●京都の地割に注目しています
魚: で、そういう時に、京都のポテンシャルなんですけど、やっぱり歴史的なストックがたくさんあるので、活用しがいのあるストックがたくさんあるということが、京都のポテンシャルだと思っています。
それは当然、目に見えてわかるような町家だったり、長屋だったり、そういう建物もそうなんですけど、もっとまちの深いところにある地割、どうやって土地が割られているとか、路地も含めてですけれども、そういった地割なども、京都が1200年前にできて、今に続く京都のストックだと思っていまして、そういうのをうまいこと活用して・・・。
絹: ほう、地割ですか。
魚: はい。
絹: それは大学院時代から研究されていた、京都の都市構造(グリッド)と、その辺のことに関わることですか。
魚: そうです。
絹: 地割、土地の区画整理と言いますか、通りをどういうふうにして街区、ブロック?
魚: そうです。例えば、街区の寸法というのが、京都は大きいと思うんですね。
120メートル×120メートルで、豊臣秀吉が一部を60メートル×120メートルに変えているんですけど、それぐらいが実は1200年前から京都に残っているものだと思っています。
町家が京都のアイデンティティという話もありますが、あれは近世に入って成立したもので(中世から町家みたいなものはできたんですけど)、今、京都に残っている町家の元祖みたいなものは、近世に見られるんじゃないかと。
そういう意味では、地割というのが、1200年前からずっとあり続けたのではないかと。
例えば、さっき、ブロックが大きいという話をしたんですが・・・。
絹: 120メートル×120メートル、あるいは秀吉さんの時代に、一部60メートル×120メートルにしたと。
魚: それでもまだ大きいですよね。
で、大きいとどういうことが起きるかと言うと、みんな通りに沿って、家を建てたがる。
でも奥の方もつくらなきゃいけない。
そうすると必然的に間口は狭くて、奥行きの長い敷地割りになるというのが、町家に繋がっていくんじゃないかと。
絹: いわゆるうなぎの寝床ですね。
魚: そうですね。
そして街区の真ん中のほうには、小さな家を建てて、そこに住むようになる。
そしてそこにアプローチするために路地ができるというふうに考えたら、町家とか路地とか、そういったものができた原因とまでは言わないにしても、理由の1つに街区の寸法が大きいということが挙げられるんじゃないかと思っています。
絹: それが地割、グリッド、街区、そういう下敷きの上に、皆さんが京都について語る時の、町家だとか路地などが乗っかっているんだと。
魚: そうです。
だからもちろん古い建物とか、路地の雰囲気などもいいと思うんですが、そういう目に見えたものだけではなくて、もう少し深いところにあるような、地割みたいなものも活かして、これから京都がどうあるべきかというのを考えていきたいなと思っています。
そしてまた、そこらへんが京都のポテンシャルではないかと思っています。

■第二章 路地奥を活用する
 ●まちなかの土地が安い!
絹: そういうポテンシャルの上で、今、京都市の、例えば住宅政策をやっている人が、色んな困りごとや悩みを抱えてらっしゃいます。
例えば空き家だとか、路地奥の再生だとかいうことですけれども、先ほどお話を承った時に、魚谷さんは路地の奥の困りごと・弱点を強みに変えるというような、逆転の発想と言いますか、「これは“とんち”に通じるかもしれない」とおっしゃっていましたけれども、最近手がけられた、そういう路地での活躍を教えていただけませんか。
魚: 路地が今、持っている問題というのは、路地奥の敷地はいわゆる道路に面していません。
ですから消防車が入れないなどの理由で、建築基準法上、新築できないようになっています。
絹: 漢字で言うと、再建築不可でしたっけ?
魚: そうですね。そういう路地奥の建物が、どんどん老朽化していっていて、今はもう空き家も増えていっている状況にあります。
老朽化していても、建て替えたくても建て替えられない。
絹: 東山区は、京都市内で一番小さな区だそうですが、京都女子大の井上えり子先生の調査を数年前に教えていただきましたけれども、空家率が、確か、数年前で22%くらいだったと思います。
ということは、向こう三軒両隣のうち、必ず一軒が空いているという感じになるんですかね。
魚: そうですね。老朽化していって、建て替えるにも建て替えられない。
で、なかなか住みにくい状況になる。さらに空き家が増えていくという状況に、今、路地奥はあります。
で、“再建築不可能”ということで、土地値が安いんです。だいたい道路に面した同じ地域の土地よりも2分の1から3分の1安いです。
じゃあ、どういうことが起こるかと言うと、一時マンションをつくる時に、隣接する路地も買い集めて、マンションを建てていた時があるんですね。
そういうことによって、地割がどんどん崩れていってしまった。
だから景観的なマンションの問題もあると思うんですが、無計画的にどんどん地割が崩れてしまったというマンションの問題も一時あったと思うんです。
マンション建設は、最近ちょっと落ち着きつつあるんじゃないかと思うんですが、そういった時に、その路地奥をどう活用するかという話です。
魚: ちょっと御幣があるかもしれませんが、昔からスラムというのは、洋の東西を問わず、郊外に出来てきたと思うんです。
都市ではなく都市の周りに。
あるいは現在、日本で中心市街地活性化という言葉が取りざたされていますが、なぜ中心市街地を活性化しなければならないかと言ったら、みんな郊外に住んでいるからなんです。
なぜ郊外に住むかと言うと、郊外が安いからなんです。
だから若い人は、郊外に安い土地を買って、そこに家を建てる。
そうすると中心に住む人が減ってくる。
ですから中心市街地は寂れていくということが、日本全国あちこちでおこっているわけです。
そうしたときに、京都は路地奥という、まちのど真ん中に安い土地がたくさんある。
そこにお金があまりない人、若い人が住めるポテンシャルがあるわけです。
老朽化している長屋ですが、しっかり改修してあげれば、快適に住めるようになる。
そういうことを示すことによって、今は空き家かもしれないけれども、そこに若い人がたくさん住むようなモデルをつくりたいと思って、何軒か路地奥の再生という仕事をしています。

 ●路地奥の改修、若い人たちの間で広がりつつあるんです
絹: もうすでに、何軒かやっちゃっているんですよね。できちゃっているんですよね。
魚: はい。
だから本当に見た目も、「こんな所に人が住めるのか」というようなボロボロな物件、入るのも怖いような物件でも、それなりにお金はかかるんですけれども、土地にお金はかからないので、建物にお金をかけられるので、快適に住めるというのが埋まっていけばいいなと思っています。
絹: そういう考え方を、長屋の大家さん、オーナーさんに提案して受け入れられましたか?
魚: ああ、一番多いのは不動産業者さんと組んでやっています。
不動産業者さんの方で、そういうのを買ってきて、うちで設計して、改修して、売ると。
だから買う時って、本当に土地値も安いし、上モノなんてゼロのようなものですので、それを工事費をかけて改修して、いくらか上乗せして、売ったとしても、かなり売れる。
そういうのが最近少しずつ広まってきたので、最近多いのは、直接住む人が自分で見つけてきて、買われて、それを「改修してください」と。
絹: ほう。今までは、京都の目利きのと言いますか、先進的な不動産を扱われている、たぶん八清(はちせ)さん的な・・・。
魚: ああ、そうです(笑)。
絹: そういう京都の新しいことをどんどん手がけてらっしゃる方々、西村社長さんですね。
魚: そうです。
絹: そういう方々がやっておられたのが、一般の方々にどんどん広まりつつある。
魚: そうです。
ですから今までは「わあ、こんなん買っても、よう直さんわ」という建物でも、実際に快適に直している事例というのが広まりつつあるので。
絹: ああ、それでようやく長屋の大家さんとか、オーナーさんが、八清さんとこでなさっているようなことを、自分たちもやれるんじゃないかと。
魚: あ、大家さんじゃなくて、住む人がですね。
若い人が今までなら「こんなん住めない」と敬遠していたような、おんぼろの路地奥の建物でも、「あ、これでも直せば住めるんだ」ということで、買われて、事業ではなく、自分が住むために・・・。

 ●モデルをつくることの意味
絹: で、設計者としての魚谷さんに依頼が来ると。
魚: うちにも来ますし、たぶんうち以外のところにもいっぱい行っていると思うんですけど、まだ商売をしているという意識があまりないので、うちで全部設計する必要もないと思っています。
そういうのがどんどん広がっていけばいいなという風に。
それが「モデルをつくりたい」ということです。
絹: なあるほど!今、目から鱗が少し落ちたような感じでした。
不動産業の方が、群れを先導するような形で、先に走っていかれて、それを周りで見ている人が、特に若い人が、「自分でやってみよう」という人が出てきているんだと。
魚: そうですね。
絹: やっぱりそれは30代以下?
魚: 30代や40代の若い人が多いですね。
絹: これはひょっとして、うれしいかも。
辻: そうですね。
絹: 京都の中心市街地に若い人が戻ってきて、子どもさんとかが、あるいは神輿の担ぎ手候補が増えるかもしれないですね。
魚: そうですね。
絹: ああ、そっかあ。それは理解が足りなかったけれども、うれしいな。
魚: ですから長屋を残したいというよりも、そういう路地とか、路地奥の敷地だとか、地割といったものを活かして、今の京都に相応しいようなことを実現したいと思っています。
絹: 僕らはついつい、路地奥再生事業とか袋路再生事業とか、漢字で、首から上で考えて、「今空き家が多いから大変だ」と、政策的に考えてしまいますけど、今の話はものすごく地べたの話ですよね。
そういう動きが下のほうから、若い人からズンと出てきているというのは、すごく自然な感じがしますね。

 ●“空き家玉突き現象”にならないために
魚: 空き家再生事業にも絡むんですが、最近、空き家再生事業が六波羅や東山の方で、取り組まれていると思うんですが、あれって、よく考えてみたら、空き家に誰かに引っ越してもらって住むわけですよね。
ということは、引っ越す前の家は空き家になりますよね。
だから総じて見ると、空き家の数は変わってないんじゃないかと。
空き家が玉突きになっているだけなんじゃないかというふうに思ってまして(笑)。
絹: リスナーの皆さん、面白い表現をされました。“空き家玉突き現象”と(笑)。
だから魚谷さんの主張は、長屋とかは小さい物件が多いので、例えば3軒くらい一緒にして?
魚: 路地奥って、オーナーが一緒のことが多いんですね。
だから3軒くらいまとめて売りに出ることがある。
でも1軒、1軒もすごく小さくて、それを3軒まとめて買って、改修して1軒にして、誰かに住んでいただければ、空き家が3戸減る。
そしてそこに誰かが引っ越してくるということは、空き家が1軒発生する。
そうするとプラスマイナスで言うと、空き家がマイナス2になる。そういう意味では“玉突き現象”にもならなくて、いいんじゃないかというふうに思います。
絹: それが魚谷さんが言うモデル。
京都でそういうものができることによって、「あ、僕にもできるかもしれない」「私にもできるかもしれない」という形で地道に広がるといいよねということですね。
魚: そうです。

■第三章 シェアハウスという選択肢
 ●規模の大きな町家は店舗に改修されることが多いけれども・・・
絹: それと先ほど出ました、シェアハウスというのも結構手がけてられる。
そのことについても、少しお話いただけますか。

東福寺のシェアハウス

魚谷繁礼建築研究所HPより転載
魚: まだ1軒なんですけど(笑)。今、1軒完成していまして、2軒まもなく完成します。
そしてもう1軒、今、工事中です。
もともとシェアハウスを手がけたのは、「シェアハウスが好きだから、是非にもシェアハウスを」という思いではありません。
町家を改修して住むというのは、最近よくある話だと思うんですが、でもそれは大概小さい町家だと思うんです。
でも町家って、本来大家族で住んで、職住共存なので、規模が大きいものが多い。
で、規模が大きい町家は、どうなるかというと、お店になることが多いと思うんです。
絹: レストランとか、そういう感じが多いですかね。
魚: はい。お店ができることによって、まちがにぎわうので、それは悪くはないと思うんですが、あまり良くないのは、お店というのは結構大々的に改装してしまうので、そのお店が潰れた時に、結構使い道が困ってしまうんじゃないかと思っていまして・・・
もちろん大家族で職住共存で住むのが、一番いいのですが、それが難しいのなら、店だけじゃなくて、住むという選択肢も一つではないかと思っています。
絹: 店舗改修の場合は、大々的に改修してしまうケースが多いと。
これを少し平仮名に翻訳すると、例えば「2階の床を抜いちゃってとか、柱を切っちゃってとか、結構構造的な冒険もやりがちじゃないの?」ということも、正しいですか?
魚: そうですね、はい。ガラス張りにバーンとしてしまったりとか。
もちろんそれが悪いわけじゃないんですが、それしか選択肢がないというのも、よくないのではないかと思ってまして、新しい選択肢をつくれないかとなった時に、やっぱり住むということができないかと。
ただ、規模が大きいので、普通に家族で住むにしては持て余す。そこでたくさんで住めばいいんじゃないかと。

 ●町家の良さを守るために
魚: たくさんで住むとなると寮とか、寄宿舎とか、マンションとかいったものがあると思うんですが、もともと町家だったものを、マンションに変えてしまうと、建築基準法で用途が変わるので、防火関係とか、今の法律に合さなければならない。
そうなると本来の町家の良さが失われてしまうわけです。
絹: 例えば?
魚: サッシですね。
木の窓でいい雰囲気だったのを、アルミサッシに変えなければならないといったことが出てくる。
あるいは外壁を木で表しているのを、モルタルや漆喰で塗り込めなければならないということが出てきてしまう。
という時に、シェアハウスというのは、建築基準法上、そういう用途はないんです。
それを京都市や消防と協議をして、シェアハウスは住宅である。
血は繋がっていないけれども、条件付きではあるけれども、一つの家族の新しい形態であるというのを認めていただいて、住宅ならば用途変更がかからないので、ほとんど今の形のままで、みんなで住める。
ということで、大規模な町家の店舗以外の選択肢をつくることを目的に、シェアハウスに取り組み始めました。

 ●選択肢を増やしたい
絹: これはもう、魚谷さんの言葉で言うと、「大規模町家、大型の町家の活用再生事例の新しいモデルを一つ増やしてみたんだよ。みんなどう思う?増やさない?」という感じですね?
魚: そうですね。だから選択肢を増やすということが、ものすごく重要だと思っていまして、シェアハウスもそうなんですね。
僕はシェアハウスが絶対にいいと思っているわけではなくて、「あり」だと思っているんです。
だから今までワンルームマンションがメインだったけれども、ワンルームマンションがいいのか、シェアハウスがいいのかではなくて、どちらもあるということがいいんじゃないかと思っているんです。
だからシェアハウスがしたくて、そういうことをやっているわけじゃなくて、選択肢が増えればいいなと思っているんです。
今はシェアハウスが流行っている部分があるかと思うんですけど、もう少ししたら落ち着くでしょうし、でも無くなりはしないと思うんです。
そうやって選択肢を増えていけばいいなということです。
絹: さて、皆さん、今までの話をお聞きになっていかがだったでしょうか。
私は非常にマイルドなと言いますか、地に足の着いた感じがしています。
ステレオタイプの建築家というと、雑誌にきらびやかな作品がデーンという感じをすぐ僕らはイメージしてしまうんですが、さすが大学院時代から、京都の都市構造、グリッド、地割という地面で見えないところに着目してきた人物だけあって、着眼点がやはり落ち着いたところで京都を見て下さっているなと思います。
魚谷さんがおっしゃっているような、モデル、選択肢を増やしていく。
良質な町家であるならば、もう少し長生きして、何代も使っていただくためには、必要最小限の改修に、たとえばシェアハウスというような形で使うことが、その建物にとってもいいんじゃないの。
あるいはシェアハウスが一種流行りのようなところもありますが、それはそれで素晴らしいけれども、あまり情緒的に流されたくないよという自己規制のようなものを、魚谷さんから感じました。
辻さん、どうでした?今日のお話をお聞きになって。
辻さんが「面白い!」と思って、連れてこられたゲストです。
辻: そうですね(笑)。
京都の弱点を強みに変えるというのが、すごく新鮮で素晴らしいなと思いました。
絹: はい。リスナーの皆さん、魚谷繁礼さん、新進気鋭の京都の地場の建築家です。
是非このお名前を刻んでおいていただけたら、また彼の仕事、あるいはそのモデルが広がるところを、実際に目にすることが、可能であれば是非ご覧ください。

■京都市景観まちづくりセンターからの告知です
絹: それでは京都市景観・まちづくりセンターからの告知タイムです。
辻: はい。魚谷さんなんですが、京都建築専門学校の市民講座でゲストの一人として、お話しされます。
2月14日“木造の魅力”ということで、ひと・まち交流館2階で開催されるシンポジウムがありますので、是非ご参加ください。
また、“まちセン”では、色々なまちづくりや町家に関するセミナーを、11月、12月と開催しておりますので、ホームページを見て、申し込んでいただければと思います。
絹: はい。ありがとうございました。それでは時間がまいりました。
この番組は、心を建てる公成建設の協力と、京都府地域力再生プロジェクト、そして我らが京都市景観・まちづくりセンターの応援でお送りしました。
ありがとうございました!
両名: ありがとうございました。
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